| 「ディア☆サンタクロース」 〜彩花〜 あるところに1人の女の子がいました。 名前は彩花。 なか幼稚園のつき組で、5才の女の子です。 つき組のみんなが楽しそうに話をしていました。 今日はクリスマスイヴ。 サンタクロースにお願いしているプレゼントのことです。 「あやかちゃんは何をおねがいしたの?」 彩花に向かって別の女の子がたずねました。 「わたしはテディベアのぬいぐるみ。 こおんな、おっきいの」 彩花は両手をいっぱいに広げてみせました。 その日の夜、彩花の家ではクリスマスパーティをしていました。 パパとママと年の離れた2人のお兄ちゃん。 みんなに囲まれて、彩花は楽しい時間を過ごしています。 「ちょっとトイレに行ってくるね」 しばらくして、彩花は居間を出ました。 「彩花、もう行った?」 ママがちょっとドアを開けて確認します。 「大丈夫、もうトイレのほうへ行ったみたい」 彩花のいないあいだに家族会議が始まりました。 「彩花の今年のお願いはテディベアだって」 幼稚園で先生に聞いてきた下のお兄ちゃんが報告します。 「きっと彩花のことだから、大きいのがいいんだろうな」 上のお兄ちゃんの言葉に、ママも発言します。 「うんうん、ママ、大きなくつ下ある?って聞かれたもの」 「じゃあ、今年のプレゼントはそれで決まりだな」 パパの言葉に、ママと2人のお兄ちゃんはうなずきました。 「じゃあ、行ってくるよ」 上のお兄ちゃんが出ていきました。 これからプレゼント……大きなテディベアを買いに行くのです。 お兄ちゃんが出て行った後、残った3人はため息をつきました。 「あの子、家では言わないからなぁ……」 「サンタさんが届けてくれるって信じているのよ」 「ホント、難儀な子だねぇ」 「それにしても、彩花、遅いわね」 ママが言った頃、彩花は自分の部屋へ向かっていました。 実は彩花は4人のやり取りを聞いていたのです。 上のお兄ちゃんが出てきたときは、隣の部屋に隠れていました。 そして、リビングでは3人が彩花のことを話しています。 なんぎ、という言葉の意味はわからなかったけど、 でもみんなで彩花のことをだましていることはわかりました。 「サンタさんなんて、いないんだ……」 だけど部屋の中には、サンタクロースがいました。 白いヒゲを生やして、赤い服を着たおじいさん。 会うのは初めてだけど、一目でわかりました。 「サンタさん……?」 彩花が呼びかけると、サンタクロースはにっこりと笑いました。 「メリークリスマス、彩花ちゃん」 サンタクロースが彩花の目線で挨拶をします。 彩花はドキドキしました。 サンタさんは、やっぱりいたんだ……! 「どうやらちょっと早く来すぎたようだね。 でも、起きてる彩花ちゃんに会えたから、よしとするか」 「うん……!」 彩花はさっきのショックも忘れて、 目の前のサンタクロースに夢中です。 サンタクロースはそんな彩花をうれしそうに見つめていました。 サンタクロースと話す時間はあっという間に過ぎていきます。 やがて、サンタクロースが彩花に言いました。 「彩花ちゃんはパーティの途中じゃないのかな?」 途端に彩花はさっきのみんなの会話を思い出してしまいました。 「サンタさん……今までのプレゼントは、 サンタさんがくれてたんだよね……?」 彩花の言葉に、サンタクロースは微笑みました。 「彩花ちゃんにはやさしいパパとママがいるんだね」 「お兄ちゃんたちもいるわ」 サンタクロースはそんな彩花の頭を撫でて、言いました。 「みんなを大切にするんだよ。 彩花ちゃんが信じている限り、 わしはちゃんと毎年彩花ちゃんのところへ来るからね」 とんとんとん…… ママが階段を上がってくる音がします。 「さよなら、彩花ちゃん」 「バイバイ、サンタさん」 最後に2人が目を合わせたとき、ノックの音がしました。 彩花が振り向くと、 カチャッという音がしてママが部屋に入ってきます。 彩花はあわてて部屋の奥を振り返りました。 そこにはもうサンタクロースの姿はありませんでした。 「どうかしたの?」 ママがその視線の先を追いかけて言います。 「ううん、なんでもないよ」 彩花はそう答えました。 居間に戻ると、パパと下のお兄ちゃんが彩花の帰りを待っていました。 上のお兄ちゃんはやっぱりいません。 彩花はくすくすと笑いました。 「彩花?」 みんなが不思議そうな顔をしています。 彩花はもう問いただすのはやめにしました。 次の日の朝、彩花の枕もとにはテディベアのぬいぐるみがありました。 彩花が想像していたよりも小さなテディベア。 でも抱きかかえるのにはちょうどいい大きさです。 「ありがとう、サンタさん」 彩花はお礼を言いました。 そしてテディベアを抱えて、 居間で待っているみんなのところへお披露目に行きました。 その日の幼稚園はクリスマスプレゼントの話で持ち切りです。 その輪の中で、彩花は楽しそうに笑っていました。 「あやかちゃん、あやかちゃん」 昨日彩花にプレゼントのことを聞いてきた女の子です。 「きのうサンタさんから、何をもらったの?」 その問いに、彩花はにっこり笑って答えました。 「テディベアのぬいぐるみ。 こおんなおっきなの……じゃなかったけど、 でもすっごくかわいいの」 サンタクロースに会ったことは内緒です。 結局、彩花には誰がプレゼントをくれたのかわからなかったけれど、 彩花の心は幸せな気持ちでいっぱいになりました。 (完) |