「ディア☆サンタクロース」  〜ありさ〜


あるところに1人の女の子がいました。
名前はありさ。
なか幼稚園のつき組で、5才の女の子です。

つき組のみんなが楽しそうに話をしていました。
今日はクリスマスイヴ。
サンタクロースにお願いしているプレゼントのことです。

「ありさちゃんは何をおねがいしたの?」
ありさに向かって別の女の子がたずねました。
「………」
ありさはその問いかけに答えることができません。
たずねた女の子は別の子のほうを向いてしまいました。

夕方、ありさは公園にいました。
ありさの家は両親が共働きで、家ではいつも独りぼっちになってしまうのです。
いつもはにぎやかな公園も、今日は静かでした。
ありさはブランコをこぎながら、泣き出してしまいました。

「どうしたの?」
気がつくと、かたわらにおじいさんがいました。
白いヒゲに赤い服、赤い帽子、赤い靴……
「………」
ありさは身構えました。
目の前にいるおじいさんは、サンタクロースの格好をしていたのです。

「この世にサンタなんていないんだから」
ありさはおじいさんに言いました。
おじいさんは困ったような顔をして笑いました。
「お嬢ちゃんは、どうしてそう思うんだい?」
おじいさんの言葉に、ありさはうつむきました。

ありさは知っていたのです。
クリスマスのプレゼントはいつも両親がくれていたから。
幼稚園のみんなのようなワクワクした気持ちは感じたことがなかったのです。

そう説明したありさをおじいさんは優しく見つめて言いました。
「お嬢ちゃんにとっては、パパとママがサンタクロースなんだね。
 だったらどうしてこんなところに1人でいるのかな?」
おじいさんの問いかけに、ありさはまた泣き出してしまいました。
「ママとケンカしちゃったの」
クリスマスはパパとママとお出かけしたい。
そんなありさの願いはママを怒らせてしまったのです。

「だから、だれも一緒にクリスマスをしてくれないし、
 プレゼントだってもらえないの」
そう言って涙をこぼすありさを、おじいさんは哀しそうに見つめました。

「じゃあ、こうしよう」
ふいにおじいさんが言いました。
「今年はわしが、パパやママの代わりにお嬢ちゃんにプレゼントをあげよう」
ありさの瞳が揺れました。

「メリークリスマス」
戸惑うありさの小さな手のひらに乗せられたもの。
それは白くて可愛いハムスターでした。
「可愛い!」
ありさの瞳が輝きました。
それはありさが前々から欲しかったものだったのです。

「でも、どうして?」
ありさはおじいさんにたずねました。
「それはわしがサンタクロースだからだよ」
おじいさんはにっこりとありさに微笑みました。

「さあ、もうおうちへお帰り」
立ちつくすありさに、おじいさんは言いました。
それでもありさは動きません。
おじいさんはそれ以上何も言わず、そんなありさを見つめていました。

しばらくの沈黙の後、ありさはおじいさんを見上げて言いました。
「これ……やっぱりいい」
ありさは手のひらのハムスターを差し出しました。

「いいのかい?」
たずねるおじいさんに、ありさは首をふりました。
「おじいさんが本物のサンタだってことはわかったから。
 わたしもみんなみたいにプレゼントをもらえてうれしかった」
ありさは「バイバイ、サンタさん」と言って手を振ると、
家へと向かって歩き出しました。

あたりはもうすっかり暗くなっていました。
「ありさ!」
その声に顔を上げると、家の前にママが立っていました。
「ママ……」
思わず立ち止まってしまったありさのほうへ、ママが駆け寄ってきます。
「ごめんね、ありさ。
 ママが悪かったわ。
 だからもうだまっていなくなったりしないでね」
ママに抱かれて、ありさは戸惑いをかくせません。
「ママ……仕事は?」
「今日は早く帰ってきたの、パパもよ」
その言葉に、ありさの表情はパッと明るくなりました。

その日はパパとママとありさの3人でクリスマスパーティをしました。
ママがごちそうをつくって、
パパがケーキを買ってきて、
そしてパーティも終わりにさしかかった頃、
パパとママがクリスマスプレゼントをくれました。

「さあ、ありさ、開けてごらん」
リボンのかかった大きな箱。
ありさはていねいにほどいて箱を開けました。

「わぁ……」
中身はペットショップで見ていた飼育箱。
そしてその中にはハムスターがいました。
白に茶ぶちの毛並みをしたハムスター。
そう。ありさがいつも見ていたハムスターだったのです。
「ありがとう!」
ありさはパパとママに抱きつきました。

次の日、幼稚園ではクリスマスプレゼントの話で持ち切りです。
その輪の中で、ありさは楽しそうに笑っていました。
「ありさちゃん、ありさちゃん」
昨日ありさにプレゼントのことを聞いてきた女の子です。
「きのうサンタさんから、何をもらったの?」
その問いに、ありさは首を振りました。
「サンタさんからはもらわなかったの」
「えーっ!?」
まわりのみんながありさを見つめます。
その様子に、ありさはあわてて手を振りました。
「ううん、いまのなし。
 ちゃんとサンタさんからもらったよ。
 白に茶ぶちのハムスター」

「うわぁ、こんど見せてねー」
ありさは笑顔でうなずきました。
 
(完)



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